製造業や建設業などが属するものづくり産業は、現在さまざまな問題に直面しています。
経済産業省が発表している「ものづくり白書」の2020年版によると、企業の大小を問わず「人手不足」と「人材育成・能力開発が進まない」という2つの問題がトップに上がっています。
この2つは連鎖関係に陥りがちですが、背景には「技術伝承が思うように進まない」という課題が潜在しています。
そこで今回は、技術伝承が進まない5つの理由と、技術伝承を行うために押さえるべき3つのポイントを紹介します。キーワードは、「技術伝承のデジタル化」です。具体的にどのように技術伝承をデジタル化できるかも解説するので、ぜひ最後までご覧ください。
技術伝承における5つの課題
さまざまな問題の背景に潜む「技術伝承」ですが、なぜうまく伝承していけないのでしょうか。代表的な5つの理由について紹介します。
熟練技術者の高齢化
熟練技術者の高齢化にともない、技術伝承がきちんと行われないまま定年退職していくケースが増加しています。技術者個人に蓄積された知識やノウハウが、若手を含む他者へと共有されないまま立ち消えてしまうのです。
「2007年問題」や、同様の「2012年問題」の影響が現在まで残っているとの見方もされています。
「2007年問題」「2012年問題」とは
団塊の世代を中心とする労働者が一斉に定年退職すると予想されたのが2007年。しかし、65歳まで雇用継続の流れもあり、退職の波が2012年になると予想され、「2012年問題」が登場。これの問題にともなって、労働力の減少や技術・ノウハウの断絶が起きるのではないかと懸念されてきた。
現在熟練技術者として働いている世代は、「見て学べ」「技は盗むもの」として仕事をしてきた世代です。そのため、今になって「コミュニケーションを取りながら若手へ技術を伝承してください」と言われても、うまくコミュニケーションが取れなかったり、口頭伝承がスムーズにできなかったりするといった壁が立ちはだかります。
また、そもそも技術伝承にあまり関心がないといった意識のズレも生じているようです。若手へ教えるには時間や手間がかかりますし、場合によってはストレスもかかります。業務効率は一時的に落ちるかもしれません。熟練技術者としては、若手に教えるメリットよりもデメリットの方が大きく感じられ、技術伝承に積極的にはなれない可能性があります。
ものづくり産業においては、「○○さんでないと分からない/知らない/できない」のように技術やノウハウが属人化しがちです。形式知と暗黙知のそれぞれが言語化され残されていかないと、企業のもつ知識やノウハウはいつまでもアップデートされません。
慢性的人材不足
少子高齢化による労働力の減少にともない、そもそも若手人材が確保しにくいという状況があります。教えるべき若手がいなければ技術伝承が滞り、技能人材の不足がさらに深刻化していきます。
ものづくり産業につきまとう「3K」(きつい、汚い、危険)が要因で、若手が業界に入ってきにくいとの問題も無視できません。ものづくり産業における従来のイメージや体制には、抜本的な見直しが必要です。
人材を補う手っ取り早い方法はアウトソーシングですが、これでは技術伝承の問題を根本的に解決することはできません。企業そのものに帰属する技術やナレッジが完全になくなってしまうリスクがあるので非常に危険です。
帝国データバンクが公開した最新データによれば、人手不足が原因で倒産する企業は2023年の年間累計で206件に上っています。
「人手不足」という問題だけでも倒産リスクが高まっている中、企業として技術や知識がなくなってしまうならば、いよいよ倒産の危険性は目の前に迫ってきます。
技術伝承のための時間がない
従来の「目で見て学び技を盗む」というのは、決して簡単なことではありません。確実に技術伝承を行っていくには、マンツーマンでの丁寧な指導が不可欠です。とはいえ、前項で触れたとおり慢性的に人手が足りていないので、人材教育のための時間と人員を確保することは困難です。
加えて現在は、働き方改革やワークライフバランスの見直しなどもあり、全体として労働時間が削減傾向にあります。業務時間中に技術伝承を行うハードルはますます高くなっています。
技術をマニュアルに落とし込めない
「技術を文字や言葉で残すのが難しい」というのは事実であり、無視できない要素です。いざマニュアルを作成するとなっても、熟練技術者がもつ「カン」や「コツ」といった暗黙知が言語化されていなかったり、文字で読むだけではイマイチ伝わらなかったりするリスクがあるからです。残したいものがマニュアルに落とし込めていないと、結果的に技術伝承は失敗に終わってしまいます。
「技術を言語化できないとなると、やはり見て学ぶしかない」と思われるかもしれません。たしかに「百聞は一見にしかず」ですが、昔のような「見て学ぶ」風習は、近年好まれている丁寧な教育環境とは相いれません。無理にこれまでの教育方法で押し通そうとすると、貴重な若手人材を失う可能性があるので注意が必要です。
技術伝承のための仕組み・システムがないまたは活用できていない
前項の「技術をマニュアルに落とし込めない」という理由から、そもそもマニュアルが存在しなかったり、技術伝承のための仕組みやシステムがなかったり…という企業は少なくありません。
たとえば、大阪中小企業診断士会の報告によれば、約52.6%の企業が「技術伝承のノウハウ・仕組みがない」と回答しています。
技術伝承のためにマニュアルを作っていても、内容や閲覧方法に実用性がなければ活用はされません。また、技術伝承のための仕組みやシステムは、本当に効率的なものでないと、かえって業務を非効率的にするだけなので、やはり実用性に耐えません。
CareARで技術伝承をデジタル化
ここまでで技術伝承がうまく進まない5つの理由について解説しました。5つの理由への一アプローチとして「動画マニュアルの活用」がよく挙げられます。熟練技術者による形式知と暗黙知が視覚情報として残せるからです。
近年、業界を問わず急激な「デジタル化」が進んでいますが、技術伝承の分野においてもデジタル化がカギを握ります。では、技術伝承のデジタル化は「動画マニュアル」がベストなのでしょうか。
技術伝承のデジタル化を検討する際に押さえるべきポイントを3つ紹介します。
- 既存の技術者が必要なときに専門知識を自由に検索・閲覧・活用できる(=ナレッジ共有ができている)
- 即時性と明快性の伴う自主学習の環境がある
- 熟練技術者のもつカンやコツといった暗黙知を見える化する
「動画マニュアル」でも3つのポイント押さえられると思われますか。ある程度は押さえられますが、より柔軟かつ効率的に技術伝承をデジタル化するソリューションを紹介します。
ARソリューション の「CareAR(ケアエーアール)」です。
CareARは、コンピュータービジョンによって現場作業やフィールドワークを力強く支える、デジタルツイン型サービスプラットフォームです。CareARには現在主に3つの機能があります。今回は、技術伝承のデジタル化に大きく貢献する「CareAR Instruct(ケアエーアール インストラクト)」という機能について説明します。
CareAR Instructとは
CareAR Instruct は、ARガイダンスをステップごとに事前作成し、マニュアルをAR/2D/3D/動画のかたちで画面上に映し出す機能です。サポートやガイダンスがステップバイステップで「見える化」されます。
セルフガイド式のビデオ案内が提供されるので、暗黙知を含めた熟練技術者からのナレッジや技術を実践的に伝承していけるのが特徴です。
現場で利用する際には、スマートフォンやタブレット、ウェアラブル端末で、確認したい製品や箇所を写すだけで利用できます。
「でも、結局はマンツーマンで若手についていないと、マニュアル通りに業務が進んでいるのかチェックする人がいない」と思われますか。ガイダンス通り正確に作業を行えているかどうかは、特許取得済みの「CareAR Computer Vision AI」によって検知するので、「必要な作業を抜かしてしまった」といったヒューマンエラーを防げます。
自主学習を促進する
CareAR Instructの検索機能によって関連性の高いコンテンツを呼び出すことが可能です。そのため、必要なときにどこからでも社内のナレッジにアクセスすることができ、若手が自主学習していける環境が整います。
OJT(On the Job Training)の形を取りながらも、結局は「先輩の仕事を見て学べ」「技は盗むもの」として技術伝承をしていると危険です。熟練技術者と若手の間に確執が生まれたり、若手技術者が早期離職してしまったり、双方の業務効率がさがってしまったりするリスクがあるからです。
しかし、手厚くOJTを実施しようとすると熟練技術者の側に負荷がかかってしまいます。CareAR InstructやCareARの他の機能は、OJTの一環としても効果を発揮します。遠隔作業中に熟練技術者から発せられたコメントやアドバイスをそのままナレッジへと保存し、あとから見返すことができるからです。
OJTを遠隔で実施できるので、熟練技術者に身体的負担を強いることもなく、かつ効率的に指導していくことが可能です。加えて、熟練技術者の暗黙知を可視化しつつ社内のナレッジとして全体で蓄積・共有していけるので、技術伝承のための仕組みが確立されることになります。
このように、CareARは技術伝承のための仕組みやシステムを確立するのに非常に有効なツールです。動画よりもさらに豊富で正確な視覚情報に基づいて、マニュアルを作成していけます。
高齢化のみならずIT人材が不足している中で、IT投資をするのはリスクですが、CareARにはその心配もありません。誰でも簡単にARマニュアルを作成することができるシステムだからです。
CareARは、ウェブベースかつノーコード、その上ドラッグアンドドロップだけで簡単に操作可能です。誰でも使いこなすことができます。
補足:今年の6月中旬に、CareARの社長Sam Waicberg氏がポッドキャストに出演しました。番組では、現場作業を行う技術者たちが直面する問題や、CareAR Instructの可能性について語っています。
ポッドキャスト「The Impact of Instructional Guidance on Experience」の動画はこちら(英語)
最後に
CareARによるARマニュアルがあれば技術伝承が体系化され、作業効率の向上や作業クオリティの均一化が期待できます。また、視覚情報をベースとしたマニュアルが作成できるので、言語の壁が生じにくくなります。これにより、外国人労働者の雇用に対するハードルを下げられるでしょう。
CareARのその他の機能を使えば、遠隔サポートや保守、遠隔臨場といったコア業務を、より効率的かつ安全に行うことができます。
ものづくり産業のニーズに合致したソリューション「CareAR」についてさらにお知りになりたい方は、ご遠慮なく弊社までお問い合わせください。