近年の医療業界における機械化はめまぐるしいものです。AIやロボットはその代表例と言えるでしょう。高度化した機械による治療は、多くの複雑な怪我や病気の治療を可能とする代わりに、機械そのもののメンテナンスをも複雑化させてゆきます。
ゆえに「医療機器の保守・点検・修理」に必要とされる時間的・人的・金銭的コストは増える一方です。医療機器点検に関するコストカットはますます困難になっています。
この記事では、医療機器点検における課題を5つにまとめます。そして、最新のAR遠隔サポートプラットフォーム「CareAR」が、医療機器点検を効率化したり、コストカットを実現したりするためにどのように役立つか紹介していきます。
今回の記事は以下の方におすすめです。
- 医療機器点検にかかるコストカットに悩んでいる医療関係者の方
- メンテナンスをアウトソーシングするか否かを検討中の方
- 今後の医療機器の高度化に伴う対応に不安を感じている方
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医療機器点検を改善すべき理由
医療機器の保守点検には3つの業務が鍵となります。
- 日常点検
- 定期点検
- 修理対応
医療関係者はご存じの通り、定期的な医療機器点検は医療法にて義務づけられている業務です。医療機関の義務として病院自らが適切に行わなければならないものと定められています(厚生労働省の定めた基準をクリアし、許可を得た業者に外部委託することも可能)。人手不足や忙しさを理由におろそかにはできない業務の一つなのです。
また、一般社団法人日本医療安全調査機構が2022年3月に公開した「医療事故調査・支援センター 2021年 年報」のグラフを見ると、「医療機器の使用」に起因する医療事故が13%も見受けられます。「治療」の枠組みの中で見れば、4番目に多い事故要因です。
事故に繋がった明確な原因は資料で明らかにされていませんが、メンテナンス不足や機器のトラブルによる医療事故を防ぐためにも、定期的な医療機器点検は必須です。「壊れていないからまだ大丈夫」では通用しません。
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医療機器点検を効率化する際に直面する5つの課題
医療機器点検を効率化し、コストカットする方法を考える前に、現場が直面する5つの課題を明確にしましょう。
1. 高度化する医療機器
医療関係者の方はまさに肌で感じておられることかと思いますが、医療機器はますます高度化し、最新テクノロジーを医療現場で活用しようとする流れは強まっています。
株式会社グローバルインフォメーションが発表したレポート「医療機器メンテナンスの世界市場 (~2026年)」によれば、3年後の2026年には医療機器メンテナンスの市場は742億米ドルにまで達すると予測されています。
医療機器メンテナンスの市場が大きくなるということは、医療機器の活用シーンが増加・多様化したり、今以上に高度になったりするということでもあります。同時に、医療機器点検の高度化も求められます。
医療現場におけるAIやIoTのへの柔軟な対応は、今後も求められるでしょう。
2. 人手不足と人手不足に伴う人的リソースの限界
医療現場においても医師や看護師不足が深刻な問題となっています。原因は少子高齢化に伴う労働力の減少や、育児・介護に起因するキャリアの中断など様々です。しかし、医師や看護師の母数が少なければ、医療機器の保守点検を院内スタッフでまかなうのにも限界があります。
多くの医療現場を混乱・ひっ迫させた新型コロナウイルスの例を考えてみましょう。パンデミック時には、全国の病院で集中的に新型コロナウイルスへ対処しなければなりませんでした。当然ながら新型コロナウイルスの治療に直結するクリティカルケア機器に重きが置かれるため、その他機器への保守点検に費やせる院内の時間的・人的リソースは平時以上に圧迫されます。
医療機器の保守点検・修理をアウトソーシングしている場合でも、抱えるリスクは同様です。機器のトラブルシューティング・修理が可能な技術者やIT人材も不足しているからです。
どの業界においても問題視されている人材不足とそれに伴う人的リソースの制限は、残念ながらすぐに解消される問題ではありません。限りある人材を大切にしながら業務を効率化させることが継続的な課題となります。
3. 医療機器点検・修理のコストカットが困難
複雑な医療機器のライフサイクル全体にわたる保守サポートおよび修理をアウトソーシングする場合、サービス利用にかかるコストは決して安くありません。
料金体系が医療機器一機あたりの契約である場合が多いため、医療機器を多く所持している病院ほど、アウトソーシングする際のコストはかさむ傾向にあります。
また、アウトソーシング先を選定する際、低コストを基準に妥協することはできません。万が一委託先の業者による適正な点検が行われなかった場合、業者だけでなく依頼した病院側も責任を問われるからです。コスト面を最優先に業者選定を行うと、万が一の際には病院の責任問題に発展し、築いてきた信頼が損なわれたり、患者さまの生死を左右したりするリスクすらあります。
医療機器の保守点検・修理は、法律的に考えてもコストカットが難しい分野です。
4. 医療機器点検・修理に関する緊急対応が難しい
どれだけ保守点検を正確かつ丁寧に行っていても、時には緊急で機器の点検や修理を行う必要があります。院内に医療機器の保守点検を行うチームや臨床工学技士がいたとしても、彼らが常に例外なく適切な経験や知識、技術を持っているとは限りません。
緊急でメーカーやアウトソーシング先からのサポートを必要とする場合、専門の技術者が到着するまで少なからず待機する必要があります。迅速にサポートしてもらえることもあれば、メーカーからの返信に時間を要する場合もあります。
上のグラフは、「日本レーザー医学会誌」42巻4号にて〈医療機関におけるレーザー機器メンテナンスの現状と課題〉という題のもとに発表した論文の一部です。医療用レーザー機器の保守(点検)担当者の職種を尋ねるアンケート結果となっています。
保守点検を担当する職種の割合として最も高いのは、レーザー機器のメーカーまたは代理店で、次いで医師となっています。つまり、もしレーザー機器が専門の技術者による点検・修理を必要とした場合、半数以上の病院がダウンタイムを強いられるのです。
1秒も無駄にできないような緊急事態が機器と機器を取り巻く環境に発生した場合、現在の保守点検・修理のプロセスでは、ダウンタイム無しで即時対応することは不可能と言っても過言ではありません。
5. 医療法によって定められているスタッフ研修
医療機器の使用に関する研修はもちろん、保守点検に関する研修をスタッフに実施することも、医療法によって定められている義務です。
厚生労働省が公開している医政地発0612第1号を見ると、指定医療機器は「保守点検計画を策定すべき」とされており、保守点検の記録を残しておくことや、実施状況の評価を行うことが求められています。
定期研修が求められる場合もあるため、保守点検に関する研修をいかに正確かつ効率よく行えるかが、業務量の多い医療業界における業務効率化の一つのポイントとなります。
医療機器点検に役立つCareARの機能
ここまでで医療機器の保守点検に関する課題をまとめてきましたが、ここからは課題に対するソリューションとしてAR遠隔サポートプラットフォーム「CareAR」を紹介していきます。まずは、CareARの医療機器点検に役立つ4つの機能について解説します。
機能1 CareAR Assist
CareAR Assistの機能を一言で表すなら、リアルタイムで指示やガイダンスを“見える化”できる機能です。コンピュータービジョンを通して医療機器を立体的にマッピングし、注釈付きのガイダンスを所定の位置に固定できるようにします。
リアルタイムで視覚的な情報やコンテキストを発信したり受け取ったりするので、状況分析にかかる時間を削減し、点検やトラブルシューティングにダイレクトに時間をかけられます。
アプリにもブラウザにも対応しており、機能への参加者数も無制限なので、医師や看護師、臨床工学技士、メーカーの技術者など、保守点検・修理に関われるスタッフはどこからでも何人でも参加することができます。
機器のふさわしい位置にARで固定された注釈や線によって、損傷している箇所や部品、注意が必要な領域を全てリモートでマーキング、指示・強調することも可能です。
CareAR Assistの機能があれば、非番の臨床工学技士が医師や看護師にリモートで指示をしたり、メーカー技術者が医師や看護師と連携したりすることも容易となります。
加えて、搭載されているAIが、機器の故障や修理といった過去の履歴と現在の情報を組み合わせ、リスクが潜むパーツや場所を視覚的に教えてくれるので、保守点検業務の更なる正確化・効率化を望めます。
機能2 CareAR Instruct
CareAR Instructは、マニュアルをAR/2D/3D/ビデオコンテンツによって画面上に映し出す機能です。
AR対応の指示と案内がテキストと映像で“見える化”されるので、医療機器の保守点検・修理に関するスキルや知識、経験の少ないスタッフでも、取るべきアクションが分かりやすいのが特徴です。
ARガイダンスをステップごとに事前作成、表示するので、必要な操作を的確に行っていけますし、現場での自己解決率向上にも繋がります。
CareAR Instruct は、経験の浅い臨床工学技士が経験を積んだり知識を蓄えたりする助けにもなります。医師や看護師の場合も同様です。それまでの経験値を大きな問題とすることなく的確な作業を行っていけます。
また、現場スタッフが正確に作業を行えているかどうかはAIが検知するので、必要なステップを抜かすといったヒューマンエラーも防げます。
機能3 CareAR Insight
※CareAR Insightは将来の実装予定機能です。
CareAR Insightは、製品詳細、サービス履歴、保証内容など対象の製品に関する豊富なコンテキストデータを表示する機能です。
製品と接続された瞬間から、InstructとAssistの機能へ情報を提供します。部品交換が必要となる時期についても予測してくれるので、問題が発生する前の段階で問題発見・解決ができます。小さなミスや見落としが重大な問題になりかねない医療現場において非常に有用な機能です。
必要な情報はすべてリアルタイムで“見える化”され、医師や看護師または臨床工学技士が問題を診断、調査、解決するのに役立ちます。臨床工学技士のナレッジギャップ解消と、スキルアップにも繋がるはずです。
機能4 CareAR Experience Builder
ARやAIといった最新技術を詰め込んだCareARですが、導入はとても簡単です。
インストラクション表示などのワークフローを、Webベースかつノーコードで構築することができます。
CareAR導入に際にして、「IT人材がいなくて難しい、できない…」なんて状況にはなりません。ドラッグアンドドロップができれば、誰でもワークフローを作れます。CareARはIT人材の不足が深刻な中でも利用できるプラットフォームです。
▶参考情報:CareARを医療業界で使用する様子を動画でご覧いただけます。
医療機器点検にCareARを導入するメリット
ここからはCareARを医療業界に導入した際のメリット5つをご紹介します。
1. 後々の大規模かつ高額な修理や医療事故を回避できる
日常点検は病院のスタッフが行うことが一般的です。しかし、定期点検に関しては、病院スタッフが行う場合も、メーカーが行う場合もあります。誰が点検を行うかに関わりなく、CareAR Insight機能による予測があれば、常に余裕をもった部品交換やメーカー対応を行っていけます。
小さくとも的確なリスク回避こそが、後々必要になるかもしれない大規模かつ高額な修理を回避することに繋がります。最も大きなコストカットになると言っても過言ではありません。
また、保守点検が適正かつ念入りに行われ、リスク回避が適正になされていれば、機器の不具合に起因する医療事故を防ぐことにもなります。保守点検の業務を通して、患者さまの命を守る・救うといった病院としての最大のミッションを果たしていくこともできます。CareARがあれば、まさに今医療業界でも注目される「予防」をキーワードに、より効率良く、より的確に医療機器の不調を予防することが可能です。
2. 臨床工学技士の業務負担を減らせる
少し前までの臨床工学技士は、病院の運営に対して直接的な影響力を持たなかったため、医療機器に関する「何でも屋」と思われてしまいがちでした。院内での立場が弱いとされる場合もあったようです。
結果的に、医療機器に関する種々の業務は臨床工学技士が一手に担い、「一つ一つが非常に高価かつ精密で、自分のミスによって壊したりできない」というプレッシャーと隣り合わせで業務をしなければなりませんでした。
しかし、医療技術の進歩に伴い2021年に法律が改正され、これまでは医師が行っていた「静脈穿刺」や「内視鏡のビデオカメラの操作」などの医療行為が臨床工学技士の業務内容に追加されました。
加えて、手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」のような臨床工学技士の助けが不可欠となる高度な手術も増えています。医療業界にロボットやAIが進出すればするほど、臨床工学技士のニーズは高まり、仕事の幅も広がり、求められる技術と知識の幅も高くなっていきます。
臨床工学技士のいる病院においてCareARによる保守点検の効率化が図れれば、医療機器のメンテナンスに関わる臨床工学技士の業務負担を軽くすることができます。
臨床工学技士に時間的・体力的余裕が発生すれば、臨床工学技士にしかできないような最新医療のための学習・トレーニングを行うための時間を生み出していけます。
現状での臨床工学技士は、まだ病院運営に全面的には直結していないかもしれません。しかし前述したとおり、今後の医療においては臨床工学技士がますます重要となるのは明らかです。
今のうちから臨床工学技士の業務環境や業務内容を整備できていれば、ロボットやAIが今以上に医療行為の主軸となったとき、病院としてすぐに対応していけるでしょう。
3. 機器のダウンタイム削減による業務効率化
保守点検であれ修理であれ、医療機器のダウンタイムが長ければ長いほど、五月雨式に病院全体の業務効率が落ちてしまいます。特に24時間体制の病院にとっては、医療機器のダウンタイムは痛手であり、リスクとなります。
CareAR AssistやInstructの機能によるグラフィカルな保守点検・修理が実現すると、ダウンタイムの削減のみならず、誤った操作などのヒューマンエラーを防ぐことが可能です。保守点検・修理がスムーズに行えるだけでなく、業務を滞らせるリスクを事前に回避することができます。
また、CareARがあれば、メーカー技術者に病院へ来てもらう回数の削減が見込めます。医療機器の保守点検・修理を緊急かつ専門の技術者に行ってもらわなければいけない場合、どれほど迅速に対応してもらえるのか不安に感じることはないでしょうか。CareARがあれば、リモートでメーカー技術者に素早く対応してもらえます。
医療機器ベンダーサイドがCareARを活用すると、技術者の現場派遣の必要性を最大50%削減できるとの結果があります。つまり、単純に考えれば病院側もメーカーからの派遣サポートを50%削減できるということであり、リモートだけで解決可能であるということです。
4. 患者からの信頼性向上
患者さまの健やかな生活や命を預かる病院にとって、患者さまからの信頼は何よりも大切です。院内でのスタッフの対応や、実際の処置の実績などが信頼へ繋がることは言うまでもありませんが、いわゆる「待ち時間」が短いことも大切です。待ち時間が長くなるとクレームに繋がるからです。
医療機器のダウンタイムによって患者さまを待たせてしまう事態は防ぐべきです。
そもそも医療機器にダウンタイムが発生する事態を防げれば理想ですが、突発的な機器の不具合を完全に予防することは不可能でしょう。ですから、万が一の時のダウンタイムを最小限に抑えられるよう対策しておくことは必要です。
「保守点検・修理をアウトソーシングするのは費用的に厳しい」「正直、保守点検業務にあまり人件費はかけたくない」という病院にCareARはおすすめです。
CareARには、複雑かつ困難な問題を10%〜25%早く解決できる効果があります。また、保守点検・修理に関する履歴を一元管理できるので、業務履歴を参照したいときに手間取ることがありません。
突発的に複雑な問題が発生したとしても、病院内のスタッフだけで迅速に対応・解決できる可能性は高まりますし、保守点検・修理に関する情報を素早く確認することも可能です。
病院にとってはほぼ全ての業務が顧客接点となりますが、どのような理由であれ「いつも待ち時間が長い」「待たされることが多い」という体験が繰り返されると、知らないうちに患者さまからの信頼を失うことになりかねません。CareARがあればダウンタイムを限りなく0に近づけ、業務の効率化と病院への信頼性の維持・向上が見込めます。
5. スタッフの研修・トレーニングが効率的になる
医療業界でCareARを導入する最大のメリットとも言えるのが「スタッフの研修・トレーニングの効率化」です。CareARのメリットを実感できるのは保守点検の分野だけではありません。
たとえば、CareAR Instructを活用すると、スタッフへ保守点検の研修・トレーニングを行うトレーナーが、リモートでトレーニーのスキルアップを図れます。
修理作業中に作成された注釈をテキスト化して保存するので、トレーナーからの知識やノウハウを形として残すことも可能です。保存されているデータを後から他のトレーニーが閲覧して予習・復習したり、共有したりする環境を整えることがCareARなら簡単にできます。
CareARを活かした研修・トレーニングを行うと、保守点検業務に関するスキルのギャップを埋め、知識やノウハウをトレーニー全体に伝えられます。
結果として、マンツーマンの研修・トレーニング体制からの脱却を実現できます。医療業界は総じて研修・トレーニングが多い業界ですし、忙しい医療現場において点検保守業務だけに時間と労働力を割くわけにはいきません。そのため、各スタッフへの研修・トレーニングを可能な効率的に行っていくことは非常に大切です。
最後に
医療技術の進歩と、医療機器の高度化・複雑化は進むばかりです。医療業界は、今後も高価で繊細な機器と共生していくことでしょう。医療機器の保守点検・修理はコストカットが難しいからこそ、CareARによって病院内での自己解決率を上げ、常に余裕を持ってリスクを回避し、適切なコストで安全を守るというスタンスが必要になります。
また、医療機器点検の業務を全てアウトソーシングするかどうかを悩んでいる病院も、CareARがあれば、アウトソーシングをしなくて済むかもしれません。CareARがあれば、病院内だけで複雑な問題に取り組める可能性も高まるからです。何より、スタッフ間での研修・トレーニングが効率的かつ分かりやすくなります。
CareARのさらに細かな機能やメリットに関しては、ぜひお気軽に弊社までお問い合わせください。