カスタマーサービスの分野において「初回解決率の向上」「自己解決率の向上」は永遠の命題とも言えます。にもかかわらず、カスタマーサービス業界での大きな変化や改革は起きにくいのが現状です。
「初回解決率や自己解決率を大幅に向上させるソリューションはないものか」と悩んでいる企業は少なくないでしょう。しかし、ついにカスタマーサービス業界にも大きな変化のチャンスが訪れています。最近急激に普及してきたARやAIといった技術です。
これらの最新技術は、決してゲームやSNSなど一部の業界に限って活躍する技術ではありません。この記事では、「ARを活用した遠隔支援」にフォーカスを当てます。一歩先のカスタマーサービスを実現するビジョン作りにお役立てください。
ARによる遠隔支援のメリット5つ
「カスタマーサービスの変化の時!」と言っても、ただ流行に乗っかるだけの策では、話題性はあっても継続性が見込めず、現在の質の高いカスタマーサービスを破壊するリスクすらあります。ARによる遠隔支援を“今”導入するメリットはどこにあるのでしょうか。
「オペレーター・技術者」にとってのメリット、「お客さま」にとってのメリットに分けて確認してみましょう。
【オペレーター・技術者のメリット】
- 1. 距離や時間に縛られない
AR機能を含め、高度な遠隔支援を行える環境があれば、お客さまとの物理的な距離や、場所、時間に縛られることなくサービスを提供できます。結果的に、サービス一件あたりに要する時間やエネルギーを削減でき、サービス効率がUPします。
場所や距離といった要素に左右されないということは、カスタマーサービスをテレワーク環境下で行う際にも役立つということです。
- 2. ユーザーの状況を視覚的に把握できる
カスタマーサービスを電話やチャットといったチャネルで行う場合、お客さまの状況を視覚的に把握することは不可能です。しかし、ARによる遠隔支援があれば、必要な知識を持つ技術者が、お客さまの持つ電子端末(スマートフォンやタブレット)から、トラブルの状況や程度を視覚情報としてキャッチすることができます。ARの機能により、故障箇所の指摘や修理のための操作も的確に伝えられます。
- 3. 技術者の安全確保ができる
カスタマーサービスの現場が必ずしも安全な場所とは限りません。とくに、行かなければいけない場所が災害現場や危険な製造現場である場合、技術者派遣のスピーディーさと安全確保を両立させることは容易ではないでしょう。
ARによる遠隔支援があれば、技術者の安全を確保しつつ、現場に急行するよりもスピーディーな対応を取れます。
【お客さまのメリット】
- 4. 問題解決までが早い
技術者がお客さまを訪問する時間をカットできれば、お客さまが技術者を待つ間のダウンタイムはカットされることになります。したがって、問題解決までのお客さまの体感時間は非常に短くできるでしょう。
お客さまが焦りや怒りを感じるであろうトラブル発生時に、一刻も早く技術者がARで的確に対応できることは、CX向上の重要な要素です。
- 5. プライバシーの保護ができる
現場がお客さまの自宅やプライベートな空間である場合もあるでしょう。サービス業者を装っての事件が増加していることもあり、どんな事情であれプライベート空間によく知らない相手を入れることを嫌がるお客さまもいるかもしれません。プライバシー保護の観点から、自宅へ招き入れて何かしらの機器を触られることに不安を感じる場合もあるでしょう。
トラブル発生時に、そのような不安を直接口にしてくるお客さまはほとんどいないかもしれません。しかし、言葉にされることがないとしても、お客さまが不安に感じる状況をAR遠隔サポートで事前に防げるとすれば、それはカスタマーサービスとしての理想の在り方です。
意外に受け入れられている遠隔支援
皆さまは、遠隔支援そのものにどのようなイメージを持っておられるでしょうか。また、お客さまが遠隔支援に対して持っているイメージに関してどのように想像しておられるでしょうか。
上の図は、RSUPPORT(アールサポート)株式会社が2022年10月に発表した、「遠隔サポート技術を提供する企業のイメージ調査」の結果です。カスタマーサービスにおける遠隔支援へのイメージに関するこの調査で、お客さまが遠隔支援に対してかなりポジティブなイメージを持っていることが分かります。
全てのイメージの中で、「便利」「丁寧」「最新」が上位に入っていることは注目です。
対して、ネガティブなイメージに関しては「不安」と答えた人が3割を超えています。「安心」のイメージを持つ人が比較的少ないことからも、「最新で便利なサービスであると同時に、新しいがゆえに難しい操作などが必要かもしれない…」というお客さまのネガティブなイメージを払拭できていないとも考えられるでしょう。
とはいえ、遠隔支援の存在は年代を問わず認知されており、遠隔支援を受けた自覚のある人が6割を超えているという事実も見逃してはいけません。遠隔支援がかなりメジャーなサービスになってきており、今後のさらなる拡大も見込めるサービスであることは明らかです。
もし企業が、「高度な遠隔支援技術を導入したところで、お客さまに敬遠されてしまうのではないか…」「結局は対面サポート主義で、遠隔支援を強化したところで意味ないのでは」と思っているのであれば、それは杞憂なのかもしれません。
企業が思っている以上に、お客さまは新たなカスタマーサービスを望み、受け入れる準備ができているのです。お客さまの側に難しい操作が求められることはないことをアピールしつつ、お客さまが潜在的に持っておられる不安を払拭するようにしましょう。
遠隔支援の認知度が、特に40〜59歳の世代に高いことも注目できます。これまで対面でのサポートを提供し、そして享受してきた世代であり、いわゆる「働き世代」だからです。
対面サポートのメリットを体験していながらも、遠隔支援についても認知しており、半数は確実に遠隔支援の利用歴を持っています。
仮に自社顧客のメイン年代層が40〜59歳なのであれば、高度な遠隔支援が実際に利用される見込みは十分にあると考えられ、かつ彼らがシニア世代へと移行していく中では、シニア世代へのサポートとして効いていきます。
とはいえ、「自己解決」の傾向が強いのは、デジタルパイオニアであるミレニアム世代と、デジタルネイティブであるZ世代です。ですから、比較的若年層を顧客として抱えている企業にとっても、自己解決率の向上という観点から、高度な遠隔支援は非常に効果的であると言えます。
AR遠隔支援ツール「CareAR」ができること
ここからは、ARを活用した高度な遠隔支援ツールとして、CareARをご紹介します。“高度な遠隔支援ツールとしてCareARを導入した場合に何ができるのか”にご注目ください。
インタラクティブな取説/マニュアルが作成・利用できる
現在、紙のマニュアルではなく電子マニュアルのほうが利便性が高いため人気です。しかしCareARで作成できるマニュアルは、電子マニュアルのさらに一歩先を行きます。
一般的に電子マニュアルとは、「紙のマニュアルをデータ化し、ネットワーク上で運用できるようにしたもの」と定義され、データの形式は様々です。動画をマニュアルとして運用する方法も電子マニュアルに含まれます。
一方、CareARではどうでしょうか。CareARのビジュアルインストラクションという機能を使えば、目の前にある製品をカメラに写すと、どこをどのように触れば良いのか一目で分かります。しかも、お客さまにとって使い慣れたスマートフォンやタブレットで利用できます。
テキストで説明しようとすると複雑な操作も、CareARなら視覚情報として見せられます。
たとえば、「製品の右下にあるレバーを時計回りに回す」とテキストで説明するのではなく、スマートフォンCareARなら、カメラをかざしただけで該当する部品をAR機能でポイントし、レバーをどちらに回せば良いのか矢印で案内します。
詳しくは下記の動画をご覧ください。
「動画マニュアルでも視覚的に説明できる」と思われますか。動画マニュアルの場合、お客さまの目の前にある製品を使って、必要な操作を説明できるわけではありません。あくまでも同じ製品をモデルとして使用し、それをもとに視覚的に見せているだけです。ときには、動画の製品とお客さまのモデルが違うことがあります。
CareARは、AR機能を使ってお客さまの目の前にある製品そのものを使って説明します。これが動画マニュアルとAR機能つきマニュアルとの一番の差です。
仮にお客さまの手元にある製品が、前後左右または裏表が逆だとしても、AR機能が自動的に製品状況を読み取り、対応できるのです。
CareARでは、手順を一から順を追って指示していきます。そのため「どの手順からスタートしたらよいかわからない」「必要な操作がわからない」といったことがありません。AIが正しい手順を踏んでいるか自動でチェックしてくれるため、必要な操作ステップを抜かしてしまうこともありません。
「オーダーメイドのマニュアル」とも言えるほどにパーソナライズされたマニュアルをお客さまに使っていただけるとすれば、確実に自己解決率向上に繋がり、2次トラブルを防ぐことも可能です。「シフトワークレフト」が実現します。
〈シフトワークレフトとは〉
「技術者が現場に行って提供するはずの『サービス』を前倒しで提供する」という考え方のことです。
ServiceNowカスタマーサービス管理の統合
ServiceNowカスタマーサービスマネジメント内のCareAR統合により、各サポートに対してCareAR Assistの機能を使用できます。
遠隔支援時には、お客さまの状況を視覚情報とコンテキストの両方でリアルタイムに確認しつつ、サポートに携わる全員が同じ場所にいるようにして対応に当たれます。
遠隔支援のみで問題解決が完了するようにデジタル体験を提供し、作業を効率的かつ安全に完了させる目標を実現します。
遠隔支援のみで85%の解決―派遣を50%削減
CareARは、遠隔支援のみで85%ものカスタマーサービスを完結させる機能が備わっています。だからこそ、技術者を現場へ派遣するシーンを50%も削減します。
技術者の派遣にはデメリットやリスクも付きものです。お客さまへダウンタイムを強要してしまったり、技術者の安全確保が難しかったり…。
派遣には多くの時間的・金銭的コストもかかります。コスト削減と人材不足問題への対処が急務である中、遠隔支援で完璧なカスタマーサービスを提供することは一石二鳥…三鳥、いや四鳥と言えるでしょう。
技術者が現場に行かない=カスタマーサービスの質を下げる、手を抜く、妥協するということでは決してありません。
むしろ、CareARを始めとしたAR機能付き遠隔支援ツールによって、新たに実現出来る顧客体験が持つメリットの方が、企業にとってもお客さまにとってもメリットがあります。
サービス時間を63%短縮できる
CareARを用いた遠隔支援による問題解決力は非常に高いため、サービス時間を63%カットできます。
通常1時間かかるリモートサービスが、約22分で終わるのです。
忙しいお客さまにとっても、人材不足やサポート効率のUPといったミッションを抱える企業にとっても、願ったり叶ったりな時間効率の良さではないでしょうか。CareARによって、お客さまと企業の両社にとってのタイムパフォーマンスが劇的に上がるとも言えます。
CareAR導入事例
最後に、CareARを導入して遠隔支援が強化されたXerox社の例をご紹介します。
課題:Xerox社の高機能プリンターを立ち上げようとしていたカナダのクライアントには、特別な知識とスキルを持つ技術者からのサポートが必要でした。しかし、新型コロナウイルスのパンデミックにより技術者たちが国境を越えられなくなり、現場での作業は不可能となりました。従って、必要な知識やスキルを持たないカナダの現場スタッフが、プリンターのセットアップができるようリモートでサポートする必要に迫られます。
CareAR導入によって:スマートフォンのカメラと、CareARのARビデオ機能を活用して、リモートで全てのサポートを完了させました。カナダの現場の状況をリアルタイムでXerox社の技術者たちに見せ、それぞれが質問、指導、操作の修正を行える環境でのサポートです。
Xerox社のシステムエンジニアの一人は、「CareARにより現場の状況を視覚的に把握できるので、トラブルシューティングが容易になり、どこに注意・集中するべきかが絞れます」と述べています。
また、技術者側からリアルタイムでテキストや矢印といったアイテムを画面へ追加表示することができるので、“このホースがしっかりと固定されていることを確認してください”というテキストとともに、画面上のホースの接点部に矢印をアンカー表示することができました。
技術者が実際に現場にいる場合と遜色ないサポートが提供されています。
最後に
CareARにAR機能を有した遠隔支援ツールがあれば、カスタマーサービスの質、効率、コスト面を格段に改善することができます。
トラブル発生時に自己解決しようとするお客さまの意思は強く、自己解決するためのツールや方法は日に日に増えています。とはいえ、自己解決のためのツール・方法の全てが正確で信頼できるかどうかは分かりません。
企業から提供されるサービスに比べて、個人がまとめているブログやレビュー、ChatGPTのようなAIツールは、100%正確で信頼できるわけではありません。ネットで調べれば、様々なところから様々な解決法が提案されるのが現状です。
だからこそ、お客さまがもっと気軽かつ迅速に使えて信頼できる企業公式のカスタマーサービスの必要は高まっています。今後の発展が見込まれるメタバース化においても、ARを使った遠隔支援サービスは活きてくるでしょう。ぜひ早いうちに一歩先のカスタマーサービス実現のために動き出してください。