2018年に経済産業省がDXを推進し始めてから早5年。5年間で製造業を取り巻く環境は刻一刻と変わっており、効率化と納期の短縮化、コスト削減、人材育成・技術継承、社員の安全確保、賃上げなど、製造業が取り組まなければいけない問題は山積しています。
DX化すれば列挙した問題を解消できると期待しましたが、実情はどうでしょうか。DX化に思うように取り組めていますか。今までに実施したDX化のアクションは、複雑化する問題の解決に結びついていますか。
この記事では、製造業…とくに設備保全に求められる作業をARによって“見える化”する方法をご紹介します。
今回は、
「思うよりもDX化に踏み切れていない企業」
「社員の安全を確保したいが、フィールドワークを減らせない企業」
「社員の賃上げとコストカットのバランス取りが難しいと感じている企業」
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製造業におけるDX化の実情
「製造業のDX化」といえば、代表例はIoTです。IoTは「モノのインターネット」と言われるとおり、従来インターネットに接続されていないものを接続することで、モノが情報交換するようになり、相互に制御する仕組みです。
製造業でIoTが活用されるメリットには、業務の効率化、品質の向上、技術・ノウハウの継承、予知保全の実現などが挙げられています。
「ならARとか言わずに、IoTを頑張れば良いじゃないか」と思われるかもしれません。
しかし、IoTの活用にはいくらか問題が存在しています。まず根本的に、IT人材の不足によって、IoTが導入できていないという現状です。
「ものづくり白書2022」のデータによれば、IT人材の不足感は、量と質共に年々増していることが分かります。2020年のグラフを見ても、約9割がIT人材の不足を感じています。
製造業がますますのオートメーション化を果たしていく中、IT分野の人材不足は増していく一方です。IT人材の不足がDXを滞らせる要因の一つとなっているのも納得のデータではないでしょうか。
次の問題は、企業がIT系投資に対して後ろ向きの傾向だということです。
上の表は、「ものづくり白書2022」に載っている「IT投資計画を減少する要因」についてです。「先行きが不透明である」ことが、IT投資を控える一番の原因です。
半導体不足や、輸入費の高騰など、IT分野を取り巻く環境は日に日に変化しています。また、メタバースやAIチャットボットなど、技術革新のスピードもめまぐるしく、すべてを読み切って行動していくことは不可能に近いと言えます。
このように、IoTにはすでに問題が存在していますが、継続的に使用・拡大することによる中期的な問題も潜在しています。IoTがもたららすデータ爆発、それに伴うリアルタイム性確保の難しさです。加えて、信頼性やセキュリティの担保ができないリスクもあります。
製造業におけるDXの目的とは
さて、ここで製造業DXの目的に立ち返ってみましょう。「製造業」と一言で言ってもさまざまな部門があるので、一概には決めつけることはできませんが、あえて目的を一言で表すなら、問題を“見える化”することです。
設備や生産ラインの問題をデータとして見える化するなら、存在する問題や無駄に関して深掘りすることができ、抜本的な解決に乗り出しやすくなります。
では、“見える化”を目的とした製造業DXは、IoTしかないのでしょうか。そんなことはありません。むしろ、設備保全・保守のプロセスそのものも文字通り“見える化”する方法があります。それが「AR」なのです。
ここからは、ARとAIで製造業DXを実現するAR遠隔サポートプラットフォーム「CareAR」を紹介します。
CareARで叶える3つの設備保全
設備保全には3種類あり、CareARはすべての効率化に貢献します。まず3つの設備保全の種類と、なぜ効率化すべきかを以下からご覧ください。
予防保全 →不良品の発生を防止できる、生産性が向上する、保全スケジュールが組みやすい、社員の安全が確保できる
事後保全 →保全業務にかかる人材や部品のコストをカットできる
予知保全 →無駄な人件費や部品コストが発生しにくい、不良品の発生を防止できる
製造業DXをすすめるにあたり、3つの保全を漏れなく行っていくことは前提条件です。「CareARで3つの保全すべてをカバーするなんてさすがに都合が良すぎるのではないか」と思われるかもしれません。
しかし、これからご紹介するCareARの4つの機能は、設備保全のさらなる効率化に貢献します。またコスト削減も同時に実現させていきます。
機能1.CareAR Assist
CareAR Assist機能は、AR技術によって視覚的サポートを遠隔から提供できる機能です。存在する問題箇所をARによって“見える化”してくれます。
加えて、搭載されているAIが、機器の故障や修理といった過去の履歴と現在の情報を組み合わせ、リスクが潜むパーツや場所を視覚的に教えてくれます。
難しそうに思えるARの利用はとても簡単です。現場にいるスタッフがスマートフォン、タブレット、スマートグラス、ドローンのカメラを使って、設備を写すだけです。どの端末と連携させるか次第で、高所の設備や、近接状態が危険に繋がる設備保全を安全に行えます。
エンジニアが現場にいなくとも、同じものを同じ場所から見ているようにして、遠隔での設備保全が可能です。全ての保全業務において、フィールドエンジニアの派遣を削減できれば、比例して派遣にかかるさまざまなコストはカットされます。
もちろん、派遣を完全になくすことは現実的ではないかもしれません。しかし、現状を把握してから、本当にエンジニアの派遣が必要かどうかを判断できれば、無駄な派遣をしてしまうリスクはありません。
TSIAの調べによれば、出張サービスや現場派遣の25%が不必要だったという結果が出ています。
現場が遠方だとしても、遠隔で保全業務が行えるなら、移動時間を考慮する必要はありません。保全業務に関するタイムパフォーマンスは向上し、保全のためのスケジュール確保も容易になることでしょう。
機能2.CareAR Instruct
CareAR Instructは、マニュアルをAR/2D/3D/ビデオコンテンツによって画面上に映し出す機能です。
必要な指示と案内がテキストと映像で“見える化”するので、スキルや経験のないフィールドエンジニアでも、理解しやすいのが特徴です。必要な作業を的確に行っていけます。
CareAR Instruct を使うことでベテランエンジニアからのナレッジ伝達・技術継承も容易になります。
指示通りに作業が完了しているかどうかはAIが判断をするので、必要なステップを抜かして作業を進めてしまう心配もありません。
機能3.CareAR Insight
※CareAR Insightは将来の実装予定機能です。
CareAR Insightは、製品詳細、サービス履歴、保証内容など保全対象のモノに関する豊富なコンテキストデータを表示する機能です。
必要な情報はすべてリアルタイムで“見える化”され、ユーザーが問題を診断、調査、解決するのに役立ちます。また、知識のギャップを埋め、エンジニアのスキルアップにも直結します。
機能4.CareAR Experience Builder
ARやAIといった最新技術を詰め込んだCareARですが、導入はとても簡単です。
インストラクション表示などのワークフローを、Webベースかつノーコードで構築することができます。
CareAR導入に際にして、「IT人材がいなくて厳しい…」なんて状況にはなりません。ドラッグアンドドロップができれば、誰でもワークフローを作れます。CareARはIT人材不足が深刻な製造業の業界で使いやすいプラットフォームです。
▶参考情報:CareARを製造業で使用する様子を動画でご覧いただけます。
製造業におけるCareAR導入のメリット
そもそも設備投資やIT投資は何を目的に行われるのでしょうか。
上の表は、既出の「ものづくり白書2022」に掲載されている、設備投資とIT投資の目的に関するデータです。設備投資に関しては、国内向け投資か海外向け投資かによって、多少目的が異なっています。
目的を大きくジャンル分けすると、「守りの国内投資」と「攻めの海外投資」となるでしょう。
とはいえ、バランスのとれた攻守こそ理想です。CareARは攻守のどちらにも効くツールです。また、製造業が立ち向かわなければいけない近年の問題解決にも貢献します。その点をCareARが製造業にもたらす5つのメリットから解説していきます。
さまざまなコストの削減
CareARは、時間的、人的、金銭的コストの全てをカットします。予防や予知保全にかかる定期的なコストをカットできます。精度の高い予防・予知保全により、事後保全が必要な場面は減るかもしれません。
何か問題が発生したとしても、遠隔で状況を把握、保全業務を行う環境が整っています。技術者が現場に行くべき問題なのか、その必要がないかを的確に判断することが可能です。
フィールドサービスなど技術者の派遣を行っている製造業は、なおさらコストの大幅カットが望めます。ARを使った遠隔サポートで保全業務が行えれば、派遣にかかる諸経費(移動費や宿泊費など)を節約できます。ダウンタイムも生じないので圧倒的に作業効率がUPします。
実際、CareARは遠隔サポートでの解決率を85%向上させ、解決時間は63%に短縮させています。
SDGsに取り組める
CareARは、SDGsに貢献できるツールです。すでにCareARはSDGsの分野で以下の実績を残しています。
2021年7月から2022年10月の約1年間で…
・412,000kgのGHG排出量を回避
・21,000の配送を削減
・リモートでの解決率が9%増加
遠隔からの設備保全により、フィールドエンジニアの派遣を削減できれば、移動に使う営業車の運行を一日一回は減らせます。すると、年間約4,500kgのCO2排出を防ぎます。
CareARの運営会社であるXerox社は、「世界で最も持続可能な100社」に3年連続で選出されています。
CareARの活用は、SDGsへの取り組みを対外的にアピールするチャンスです。
SDGsへ積極的に取り組んでいるという対外的事実は、人材採用の際にもプラスに働くので、人材不足問題へのアプローチにも繋がります。
市場の拡大が可能
CareARがあれば、物理的な距離にとらわれることなく設備保全ができます。遠隔での設備保全の基盤が完成・安定すれば、製造拠点の新設や海外進出さえも現実的になります。
保全業務が効率化されることで、時間的・人的リソースに余裕が生まれれば、新たな製品やサービスを提供することも期待できるかもしれません。市場の維持・拡大の面で「攻め」の姿勢をとれるということです。
高いROI
最近の物価高騰に伴う各社の賃上げは、もはや一つの社会問題となっています。製造系の中小企業にとっては、大手がこぞって満額で賃上げしたことがかなりの痛手になっています。人材の維持・獲得の競争において不利な立場に追いやられてしまうからです。
「社員のために賃上げを…」と考えている企業にとって、「CareARのような最新技術にコストをかけるよりは、賃上げにコストを割いた方が良いのでは…」と悩むこともあるでしょう。
正直、CareARは決して低コストのツールではありません。しかし、コストパフォーマンスの観点から見れば、最高のツールであるといえます。
たとえば、Xerox社が2022年の1年間でCareARを使用しながらROIを計算したところ、1万人のフィールドエンジニアがCareARを使用し、実に4億円のコストカットを果たしました。1人4万円はカットしたという計算になります。
ぜひ自社のエンジニアの派遣コストに当てはめてみてください。同じ比率だけコストカットができれば、従業員の賃上げを実現する余裕も生まれてくるのではないでしょうか。物価高騰と賃上げの波がいつ落ち着くのかが分からない以上、より長期的にメリットのある企業投資が求められます。
フィールドエンジニアを大事にできる
フィールドエンジニアには、「きつい、危ない、休めない」といったネガティブなイメージがついているようです。確かに、このイメージを完全に否定するのは難しいかもしれません。
とはいえ、企業としてフィールドエンジニアを大事にし、それを対外的にアピールすることは可能です。
保全業務において中心的な存在は、フィールドエンジニアたちです。ぜひ、CareARによって安全を確保した状態で作業ができること、現場作業が最低限で済むこと、ノウハウや知識の継承をする体制も整っていることをアピールしてみてください。
土日祝日もシフト制で回している企業のエンジニアたちは、問題が発生すれば休みなど関係なく現場への急行が求められるでしょう。しかしCareARがあれば、たとえ出先だとしても遠隔で必要な指示を出すことが可能です。
このようなアピールがなされれば、フィールドエンジニアに持たれがちな負のイメージをかなり払拭できるはずです。採用の促進につながっていきます。
結果的な相乗効果として、QCDの向上も期待できます!
CareAR導入事例
最後に、CareARを導入した製造業の例をご紹介します。
Visioneers社は、ドキュメントスキャナーのリモートサポートを提供する会社で、Xerox社と提携しています。
課題:ハードウェアの問題に遠隔で対応しようとすると、顧客サイドの情報があまりに少なく、視覚的に問題を把握できなかった。そのため、顧客サイドのダウンタイムが長引いた。技術者の派遣やスキャナー交換の必要も頻発し、結果的にコストが増大していった。
CareAR導入後:CareAR Assistを導入した結果、リモートでリアルタイムのサポートができるようになった。顧客サイドの問題に関しても、実際にARで「診る」ことができている。
2021年の9月にCareAR Assisを導入して以来、同社では数千ドルのコスト節約を果たし、331%のROIを達成。修理やトラブル対応のために技術者を派遣することも減り、問題はフルリモートで解決、スキャナーの交換率を劇的に減少させることにも成功した。
最後に
製造業とフィールドエンジニアたちを取り巻く環境は日に日に複雑化しています。現場が抱える問題は、容易に解決できるものではありません。
だからこそなるべく早く手を打たなければ、グローバル競争はおろか国内での同業他社に潰されてしまうでしょう。まだ不十分とはいえ、DX化の動きも高まっています。
製造業DXで“見える化”を目指すなら、ただデータとして“見える”だけではなく、その一歩先…設備保全の「作業」と「データ」の両方をCareARで“見える化”してみませんか。